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皮膚生理学研究室(化粧品)
研究室からの
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Prof コラム2025.11.25

【学会報告】色素細胞研究のミライとは?恩師や若手と語るメラニンの最前線

先日、大阪公立大学で開催された「日本色素細胞学会」にて、招待講演を行いました。 本学会は、皮膚科医、生物学者、企業での美白化粧品研究者など幅広い研究者が集まり、主にメラニン色素を作る「色素細胞」について議論するユニークさが特徴です。今回のテーマは「メラニン研究のトピックス」。光栄なことに、岡山理科大学の安藤秀哉先生と共に座長も務めさせていただきました。

学会全体のテーマは「色素細胞研究のミライ」。 私たちのシンポジウムでも、教科書に載るような基礎的なお話から、まだ世に出て間もない最新の研究成果まで、過去・現在・未来をつなぐ幅広い内容が語られました。ここで、少し専門的ですが、どんなお話があったのか簡単にご紹介します。

  1. 美白研究の歴史と未来(安藤秀哉 先生)
    トップバッターは安藤先生。「美白化粧品の現状と将来像」についてお話しされました。安藤先生は、企業の研究員時代に美白主剤「リノール酸」という成分の研究を主導された方です。私たちが普段手にする化粧品の裏側には、こうした研究の積み重ねがあるのです。

  2. メラニンを作る酵素の「光と影」(伊藤祥輔 先生)
    続いて、藤田医科大学の伊藤祥輔先生(名誉教授)のご講演です。伊藤先生は50年以上もメラニンの化学を研究されている、まさに世界のレジェンド。 メラニンを作るための鍵となる酵素「チロシナーゼ」について、詳細なレクチャーをいただきました。長年の研究に裏打ちされたお話は圧巻でした。

  3. 教科書を書き換える新発見!?(若松一雅 先生)
    同じく藤田医科大学の若松一雅先生(名誉教授)からは、細胞内の発電所「ミトコンドリア」とメラニンの意外な関係についてのお話でした。 これまでメラニン生成の司令塔は「MITF」という転写因子だと考えられてきましたが、それに依存しない新しいメカニズムがあるという発見です。この成果は、科学界で最も権威ある雑誌の一つ『Cell』にも掲載されました。 (※興味のある方はこちら

  4. タンパク質の「飾り」がスイッチになる(仁木)
    私(仁木)からは、タンパク質に脂質が結合する「脂質修飾(ししつしゅうしょく)」という現象が、メラニン生成にどう関わるかについてお話ししました。皮膚の色素沈着を調節する新しいスイッチの可能性についての研究です。(※興味のある方はこちら

  5. 新世代の研究ツール(菅原さん・修士1年)
    最後は、東北大学大学院の菅原さん。なんと修士1年生という若さでの登壇です! 「メラノソーム(メラニンの袋)」が色素細胞内でどう運ばれるのかを解析する、最新ツールの開発について発表してくれました。これからの研究を加速させる素晴らしい技術でした。

今回のシンポジウムは、質疑応答も大いに盛り上がり、盛会のうちに幕を閉じました。

実は、伊藤先生と若松先生は、私が大学院生の頃から長年ご指導いただいている恩師です。そして安藤先生は、企業研究員時代の上司にあたります。 私の研究者としてのルーツを作ってくださった先生方と同じ舞台に立ち、さらにそこに、菅原さんのような優秀な若手が加わる。まさに「研究のミライ」を感じる一日となりました。

大恩ある先生方への感謝と若手研究者の皆様への期待と共に、明日からの研究への活力をいただいた素晴らしい時間でした。(仁木)