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客員教授からの
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トピックス2026.01.27

インターネットや生成AIが「化粧品開発」にもたらしてくれたもの

私が1982年に資生堂研究所に新人として入社したときにはまだ生成AIはもちろんのこと、インターネットやスマホも普及していませんでした。それを言い出したらパソコンや携帯電話(ガラケー)すらなく、今振り返れば、それでよく仕事できていたなとつくづく思います。 

昔話はさておき、インターネットや生成AIなどの「文明の利器」は我々の生活や仕事に多大な利便性を与えてくれているにも関わらず、我々はその恩恵の部分だけは当然のように享受する一方で、誹謗中傷、いじめ、詐欺やフェイクニュースなどのツールに使われているという負の側面ばかりが強調されている昨今のように感じます。

今日はインターネットや生成AIがなかった時代と普及後の両方を経験してきた化粧品技術者の視点で、インターネットや生成AIがどのように化粧品開発に恩恵をもたらしてくれたかについて考えてみたいと思います。

いつの時代でも化粧品開発テーマを開始するに当たっては関連する「先行技術」の調査が必須です。今だったらパソコンの検索エンジンを叩けば、ほどなく情報源に辿り着くことができるのでしょうが、私が入社した時代は抄録・索引データベース自体がChemical Abstracts(ケミアブ)などの紙ベースしかありませんでしたので、全て「手捲り対応」で、幸運にも良さそうな総説の記載に巡り合えれば、文献やジャーナルを豊富に保有している機関に外注してまずはその総説のコピーを入手しないとなりません。次はその総説を読み、必要な孫文献をまたまた外注して入手する必要があります。このように先行技術の調査一つをとってもかなりの時間と費用(外注して必要な文献のコピーを入手するのは量が多いと結構高額でした)を費やさないとなりません。次にはこれらの文献を読まないとならないのですが、ご存じのように先端技術の場合は殆ど例外なく英文ですので、当人の語学力にも依るのでしょうが、大量の英文を熟読して習得することは決して容易なことではありません。

先行技術調査を例にとって上述しましたが、これは化粧品開発の全てのフェーズに当てはまることで、インターネットや生成AIがなかった時代は①必要な情報へのアクセスと②入手した情報を理解する語学力、に対して決して低いとは言えないハードルが存在したのです。潤沢な資金と人材を有している大手企業にとっては自社内だけでなくアウトソーシングにも頼ることもでき、それほど大きな問題ではなかったのかもしれません。

インターネットと生成AIの普及でこれらのハードルはかなり低まったと言えるでしょう。誰しもがどのような情報でも低額で取得することができるようになり、最近の生成AIの台頭で、英文は瞬時に正しい和文に変換することができ、論文の理解や作成という次元で語学力のハンディキャップはかなり解消されたと言えます。これはどういうことかと言うと、かつては大手企業が中小・零細企業に対して圧倒的な優位に立っていた情報収集・解析力の分野での格差は激減し、化粧品開発力における「機会の平等性」が担保されたとも言え、今後大手企業だけでなく、化粧品業界の幅広い階層で海外進出を拡大していく上で望ましいことだと思います。(神田不二宏)