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トピックス2026.04.29

「シリコーンは悪者?」― 世界のUV化粧品から考える原料と規制の本音

四季のある日本では、寒い冬から爽やかな季節へと移り変わる時期を迎えています。気持ちの良い青空のもと、屋外に出かける機会が増えるこの季節こそ、UV対策を忘れてはいけません。日々の丁寧なケアの積み重ねが、シミやしわの少ない、若々しい肌を維持することにつながります。

こうした背景もあり、日本では高いUV防御能と優れた使用感を兼ね備えた高機能UV化粧品が数多く開発されてきました。一方で、赤道直下の国々をはじめとする地域においても、紫外線対策への関心の高まりとともに、UV化粧品市場が活発化しているとの報告があります。

そこで今回、UV化粧品向けに無機粉体の表面処理や分散体をグローバルに展開している企業を訪問し、欧州、北米、東南アジアを中心とした市場動向について情報収集を行いました。中でも、化粧品原料として広く用いられているシリコーンの位置づけや今後の方向性について、意見交換を行いました。

化粧品処方でおなじみの「シリコーン」は、のびの良さ、さらっとした感触、撥水性など、製品の“使い心地”を支える重要な素材です。一方で近年、欧州を中心とした規制動向や、「シリコーンフリー」という表示を目にする機会も増えてきました。本稿では、こうした動きを整理しながら、現時点で見えている流れと今後の方向性について、私なりの視点でやさしくまとめてみたいと思います。

まず規制の面では、欧州(EU)において低分子の環状シロキサン(D4D5D6)に関し、REACH規則の枠組みのもとで使用制限が強化されています。報道だけを見ると、「シリコーンは使えなくなるのか」と不安に感じるかもしれません。しかし、議論の中心はシリコーン全般ではなく、特定の低分子成分にあります。実務的には、原料中に不純物としてどの程度含まれ得るのかを把握・管理すること、揮発性シリコーンに依存してきた感触設計を見直すこと、さらには分析や品質保証(測定方法や仕様書の整備・更新など)を丁寧に進めることが、現実的な対応課題となっています。「何を、どれくらい、どんな用途で使うのか」を整理する重要性は、これまで以上に高まっているといえるでしょう。

市場全体の空気感としては、今後しばらくは二つの流れが同時に進んでいくと感じられます。一つ目は、サンケア製品や化粧下地、崩れにくさが重視されるベースメイクなど、機能価値そのものが選択理由となる領域です。これらの分野では、シリコーン、とりわけエラストマーや樹脂、表面処理粉体との組み合わせが持つ強みは依然として大きく、すぐに全面的な代替が進むというよりは、「必要な機能を見極め、より上手に使う」方向へ進むと考えられます。

もう一つの流れは、クリーンビューティや「できるだけシンプルな処方」を志向する消費者層に向けて、シリコーンフリー処方を製品コンセプトとして打ち出す動きです。炭化水素系溶剤や植物由来エステル、増粘・ゲル化技術などを軸とした代替素材の提案は、今後さらに増えていくでしょう。

ただし、ここで押さえておきたい点があります。「シリコーンフリー」という表示そのものが、環境適合性や肌へのやさしさを自動的に保証するわけではないという点です。代替原料にも、VOC、原料調達の持続可能性、刺激性、微量不純物など、別の観点からの評価が必要となります。結局のところ重要なのは、「何を外したか」ではなく、「製品として何を優先し、どのような根拠をもって説明できるか」だといえるでしょう。

まとめると、今後数年はD4D5D6への対応が処方設計の前提条件となりつつ、その上で、シリコーンを必要な機能に絞って活用する路線と、シリコーンフリーを製品コンセプトとして選択する路線が、しばらく併走していくと考えられます。薬学系大学の教育という視点で見ても、本テーマは安全性評価(ハザードと暴露)、規制文書の読み解き方、微量分析、さらにはマーケティング用語と科学的事実の距離感など、多くの学びを含んでいます。シリコーンは決して「良い」「悪い」で単純に割り切れるものではありません。さまざまな条件の中で最適解を探っていく、その思考プロセスこそが、これからますます重要になっていくのではないでしょうか。 (前山 薫)