トピックス2026.09.17
身近な化学シリーズ① サンマ売り場の「氷水」から考える
9月に入ると、秋の味覚であるサンマが店頭に並び始めます。スーパーや魚屋さんに行くと、パック詰めの商品だけでなく、氷水に浸された状態で販売されているサンマを目にすることがあります。見ていると、「長時間店頭に置かれているのに、なぜ氷はなかなか解けないのだろう」と不思議に思ったことはないでしょうか。
実は、この何気ない光景の中に、化学の面白い考え方が隠れています。
氷は通常0℃で融けます。しかし、水の中に塩などの物質が溶けると、その温度は変化します。これを「氷点降下」と呼びます。氷点とは液体が凍る温度のことで、氷点降下とは、その温度が本来よりも低くなる現象です。
冬になると道路に融雪剤として塩化カルシウムが撒かれますが、これも同じ原理です。水に塩が溶けることで氷点が下がり、雪や氷が凍りにくくなります。皆さんも理科の授業で、水に食塩を加えると氷がより低温になる実験を見たことがあるかもしれません。
魚売り場の氷水でも、この原理が利用されることがあります。氷だけでは徐々に融けてしまいますが、適切な濃度の塩分を含んだ冷却水を用いることで、水温を0℃以下の状態に保ちながら魚を冷やすことができます。魚全体を均一に冷却できるため、鮮度保持にも効果的です。見た目には単なる「氷水」ですが、その背後には食品の品質を守るための化学的な工夫が隠されているのです。
ここで大切なのは、氷点降下という知識そのものではありません。むしろ、「なぜだろう」と疑問を持つ姿勢に価値があると思います。
私たちの周囲には、科学の視点で見ると興味深い現象が数多く存在します。炭酸飲料の泡はなぜ発生するのか。スマートフォンが熱を持つのはなぜか。雨が降る前に湿度が上がるのはなぜか。普段は当たり前に受け流している出来事も、一歩立ち止まって考えてみると、その背景には物理学や化学、生物学などの法則が働いています。
研究も同じです。大きな発見は、必ずしも最先端の装置や壮大なテーマから生まれるわけではありません。多くの場合、「これまで当たり前だと思っていたけれど、本当にそうだろうか」という小さな違和感や疑問が出発点になります。日常の中にある気づきを大切にする人ほど、新しい発想や独創的な研究テーマにたどり着くことがあります。
理系を学ぶ魅力は、身近な現象を科学の言葉で説明できるようになることです。そしてさらに、その説明を通じて新しい疑問を見つけられることにあります。
次にスーパーや魚屋さんでサンマを見かけたときは、ぜひその下にある氷水にも目を向けてみてください。「なぜ氷が残っているのだろう」「どのような仕組みがあるのだろう」。そんな小さな疑問が、化学への入り口になるかもしれません。
日常の中に隠れた“なぜ”を見つけること。それこそが、科学する心の第一歩です。そして、その習慣が皆さん自身の新たな着眼点や発見につながっていくことを願っています。前山 薫