閉じる

Cosmetic Science

客員教授からの
お知らせ

トピックス2023.01.01

2022年のグローバルコスメトレンド (Top 5 Cosmetics &Toiletries Trends of 2022)

皆さま、明けましておめでとうございます。昨年末は全く年末感を感じなかったのですが、その流れで新年感も今一つ湧いてきません!!コロナが終息に向かっているとは言い難いですが、行動制限もない中、外出の機会も増え、今年は徐々に季節感も戻ってくるのでしょうか?そんな中、本ブログでは化粧品業界のホットなトピックスをなるべくタイムリーにお届けできるように今年も頑張りますのでよろしくお願いいたします。

新年第1弾として、米国の化粧品業界誌C&T(Cosmetics & Toiletries)の電子版に掲載された「2022年のコスメトレンドTop 5」について2022年のグローバルトレンドの総括としてご紹介します。

 第5位 Clean Beauty(クリーン・ビューティ)
日本でも一般に広がり始めているClean Beauty。英文をそのまま解釈すると「洗浄系」の話かな?とも思ってしまいますが、ここで言う”Clean”は、”xxx-free””xxx-less”のことを指しています。日本で数十年前から始まった「無添加化粧品」の考え方と同じですが、米国でも日常的に使用する製品に何が含まれているかという点で消費者の関心が高まっているため、Clean Beautyは近年人気になっているそうです。実際米国ではClean Beauty CosmeticsというカテゴリーができていてSLSSLESなどの活性剤、パラベン、ホルムアルデヒド、フタレート(可塑剤)、ミネラルオイル(鉱物油)などの皮膚に良くないのでは?と考えられている成分を含まない化粧品が販売されています。しかし、2020年の南野の講演@福岡でお話ししたように、全世界的にClean Beautyの定義、つまり、どの成分を含まなければClean Beautyと言えるかという基準は決まっておらず、化粧品メーカーが独自に決めているのが実状です。
このような状況で、202211月、Clean Beautyの第一人者である化粧品販売の大手セフォラが “Clean at Sephora”というマーケティングで販売している化粧品に、「多数の合成成分が含まれており、そのうちのいくつかは害を及ぼす可能性がある。」ということから、これらの成分を含む化粧品があたかもcleanであるかの誤解を生む表示がなされたということで集団訴訟を起こされました。これはアメリカの化粧品業界にも衝撃が走ったようで、その翌週に開催された、米国化粧品技術者会(SCC)の76回年次大会で、訴訟とその解決方法について多くの議論が行われたそうです。この訴訟の動きも含めて、我々は化粧品成分の安全性と透明性に関する世界的な動きに注視していく必要があります。

第4位 CBD
美容の分野でCBDというと、カンナビノイド(cannabinoid)のことで、マリファナなどの作用に関係する化学物質です。日本でこれが市民権を得るのは難しいと思いますが、米国では有名なミュージシャンがCBDを含む独自のスキンケアラインを立ち上げたこともあり、拡大し続けているようです。カンナビノイド関連の精神皮膚科学的研究も精力的に行われていて、その人気は高まり続けているようです。規制面も含め、急激に普及するにはまだ時間がかかるものと考えられますが、今までにない価値を提供できる可能性を秘めている物質であると米国では考えられているようです。

第3位 Sunscreen(サンスクリーン)
ようやく馴染み深い単語の登場です!!一部の有機UVフィルター(ケミカルサンスクリーン剤)がサンゴ礁の破壊につながっているのではないかという疑惑のもと、新しいサンスクリーン成分の開発も精力的に行われ、サンケア市場はこれから2027年にかけて右肩上がりの経済成長が見込まれているようです。この領域は特に製剤開発は日本のお家芸と言っても過言でなく、UV防御能を犠牲にすることなく感触や使い勝手の良い新しい技術で今後も世界に貢献できるのではないかと思います。

 第2位 Acne(アクネ)
これも「トレンド」と呼ぶには古臭く、昔から話題になっている言葉ですが、アクネは米国でもいまだに重要な課題であり、2022年には、複数の化粧品メーカーからアクネ肌のための成分やデバイスが発売され話題になったようです。これだけ長い間種々の研究がなされてきたにも関わらず、決め手となるソリューションがない点もアクネの手強さを物語っているのだと思います。一方で、日本ではアクネ用スキンケアは薬用(医薬部外品)として発売される必要がありますが、アクネの研究も相当進んできているにも関わらず、薬用にするための有効成分が抗菌剤というのも個人的には時代遅れだと思っています。アクネの研究が世界的に広がり深まっていくと、いまだに抗菌剤と言ってる日本は、またもガラパゴスになっていくような嫌な予感がしてしまいます。

第1位 Microbiome(微生物叢)
Microbiome(マイクロバイオーム)という言葉をまだご存じない方も多いと思います。なぜなら化粧品業界でいうMicrobiomeは、皮膚に存在する微生物たちのことで、まだ研究が始まったばかりの分野だからです。実際、IFSCC(国際化粧品技術者会連盟)の大会でも、ここ数年の間で、日本からの発表も含めて多くの研究が発表されてきており、確かにマイクロバイオームが新しいトレンドであることは実感しています。

IPCE2020の基調講演のスライド

実は、南野がまだ若かりし頃、生薬成分が皮膚の微生物叢にどのような影響を与えているかという研究をしていたことがあり、イタリア協会主催の2020年IPCEで基調講演をしました。新しい解析方法が容易にできるようになった現代、マイクロバイオーム研究の発展は楽しみでもあります。まだ新しい領域であるが故に、知られていないことも多く、正にこれからの学問領域と言えるでしょう。そんなに簡単なものでもないと思いますが、研究が進むに連れ、化粧品科学との連携も深まって行くことに期待しています。

米国の化粧品専門誌が選んだ2022年のトレンド、如何でしたか?本文では選外(Honorary Mentions)のトピックスについても述べられていますのでこちらも併せてご覧ください。こちらもなかなか興味深いですよ。

正月早々、長文ブログになってしまいました。最後までお読みいただいた皆様に感謝いたします。それでは今年も何卒よろしくお願いいたします。(神田不二宏・南野美紀@2023元旦)