トピックス2025.12.20
環境について考えてみよう!!
海から始まる炭素固定革命 – AICaSの挑戦
2007年に「真珠層形成研究会」を立ち上げてから、今年で19年になります。この間、多くの先生方とミキモトグループの研究員が参加し、真珠研究の深化に取り組んできました。
研究テーマの一つは、アコヤガイの真珠層や貝殻の形成過程です。生体内には多様な分子が存在し、それらが複雑に相互作用することで、主に炭酸カルシウム(CaCO₃)からなるバイオミネラルが形成されます。このプロセスを解明する「バイオミネラリゼーション」の研究を進めてきました。
従来、「バイオミネラリゼーションによるCaCO₃生成は炭酸ガス固定技術には応用できない」という通説がありました。海水中でのCaCO₃生成はCO₂を放出する反応と考えられていたためです。しかし、最新の知見では、海洋生物のバイオミネラリゼーションは海水中ではなく、生体内で起こっていることが判っており、従来の「非生物学的な反応系」では説明に矛盾が生じることが判ってきました。
この発見は、アコヤガイにとどまらず、海洋全体に広がる可能性を秘めています。
我々の研究チームメンバーの東京大学の鈴木道生教授、北里大学の安元剛准教授が中心となって、12月22日(月)、一般社団法人 水圏統合カーボン固定推進機構(AICaS)Aquatic Integrated Carbon Sequestration Organization(AICaS)を設立します。
海洋全体の規模に広がり、大きな取組みになって参りましたが、養殖真珠に関わるメンバーもこの活動を支援していく予定にしています。
地球温暖化を防ぐには、CO₂を減らすだけでなく、「吸収して長期的に閉じ込める」ことが重要です。海の生き物(貝やサンゴなど)は殻や骨格に炭酸カルシウムを作り、炭素を安定した形で固定します。AICaSは、この自然の仕組みを科学的に評価し、社会に活かす取り組みを進めます。
CO₂ → 有機固定+鉱物固定 → 長期貯蔵 → カーボンクレジット創出
なぜ海なのか?
海で生成される炭酸カルシウムは年間約50億トン(5 Gt)に達し、CO₂換算で約2 Gt/年が長期的に固定されています。これは、従来注目されてきたブルーカーボン(海草やマングローブ:約0.2 Gt/年)の10倍以上の規模です。
これまでの誤解
長年「貝やサンゴが殻を作るとCO₂を排出する」と考えられてきました。しかし最新研究では、殻の形成は生物体内でアルカリ性環境下で進み、むしろCO₂を固定していることがわかっています。
AICaSの役割
- 海の生物による炭素固定を正しく測定
- カーボンクレジットとして認証
- 水産業や地域経済に新しい価値を創出
- 生物の仕組みを応用したCO₂固定技術の開発
効果はどれくらい?
日本の貝類養殖だけでも、年間13〜15万トンのCO₂を固定可能です。これをカーボンクレジットとして評価すると、約150億円規模の新市場が生まれる可能性があります。
まとめ
AICaSは「海から始まる炭素固定革命」を推進し、気候変動対策と生態系保全を両立させる新しい仕組みを構築します。海の力を活かし、未来の地球を守る挑戦が始まっています。
