トピックス2026.11.02
36th IFSCCパース大会に参加して ”真理の追求、研究魂ここにあり”
2026年9月28日から10月1日にかけて、オーストラリア・パースで開催されたIFSCC(国際化粧品技術者会連盟)大会に参加した。
世界中の化粧品研究者が集うこの大会では、多くの優れた研究発表に触れる機会があった。その中でも、私が特に感動した研究を紹介したい。
その研究は、毛髪の加齢変化をテーマにしたものである。
近年、研究開発の現場ではスピードや効率が重視されるようになった。限られた予算や期間の中で成果を求められるため、有意差が得られなかった場合に、「改善傾向が見られた」「効果が示唆された」といった表現で結論をまとめることも少なくない。
もちろん、そのような研究にも意義はある。しかし、研究者として本当に目指すべきは、「傾向」ではなく「事実」を明らかにすることではないだろうか。
今回の研究では、毛髪内部を構成するIF(Intermediate Filament)およびIFAP(Intermediate Filament Associated Protein)の構造が、加齢によってどのように変化するのかを解明するために、 20代から60代までの女性2558名の毛髪を収集し、SPring-8を用いたμSAXS測定を実施している。
2558名というサンプル数は驚異的である。
毛髪は個人差が大きく、年齢だけでなく生活習慣やヘアケア履歴など多くの要因の影響を受ける。そのため、加齢変化を統計学的に証明するには膨大なデータが必要となる。
この研究では、その困難から逃げることなくデータを積み重ねた。その結果、IF半径(R)が加齢とともに有意に増加すること、さらにその変化が毛髪内部の空隙形成と密接に関連することを明らかにしている。
私が感銘を受けたのは、研究結果そのものだけではない。その研究姿勢である。
実は、この研究を統括している研究責任者は私の友人である。これまで何度も研究に対する考え方や取り組み方について議論してきたが、一貫して感じていたのは、「真実を明らかにするためには妥協しない」という強い信念である。
十分なサンプル数を集めること。
客観的なデータを尊重すること。
都合の良い解釈に逃げないこと。
そして、結論を支えるだけの証拠が集まるまで研究を続けること。
私はその考え方に深く共鳴してきた。
今回のIFSCCパース大会でも、彼とは連日グラスを傾けながら研究マネジメントについて語り合った。研究テーマの選び方、人材育成、組織運営、研究予算の活用、そして研究者として何を大切にすべきか。話題は尽きることがなかった。そうした対話を通じて改めて感じたのは、優れた研究成果は偶然生まれるものではなく、長期的な視点に立った緻密な研究マネジメントによって支えられているということである。
今回の発表は、その研究哲学が見事に結実した成果であり、同時に優れた研究マネジメントの成果でもあると感じている。
研究とは、期待する結果を示すことではなく、真実を明らかにすることである。
「傾向がある」で終わらせることは簡単だ。しかし、「差がある」と科学的に証明するためには、多大な労力と時間、そして揺るぎない信念が必要となる。
2558名の毛髪サンプルの背後には、そうした研究者たちの執念と誠実さがある。
私はこの研究に心から賞賛を送りたい。そして、それを牽引した研究責任者の優れた研究マネジメントに深い敬意を表したい。
まさに、
「真理の追求、研究魂ここにあり」
である。 前山 薫