トピックス2021.04.25
ワクチン接種により起こるアレルギー症状が女性に多いのは化粧品に配合されているPEGのせいって本当?
長引くコロナ禍で日本でもようやくワクチンの接種が始まりましたが、接種による副反応に関する報告も少しずつ出てきました。現在日本で承認されているワクチンの副反応である強いアレルギー反応(アナフィラキシー)は、一般的なワクチンによる副反応の約2倍、そして90%以上が女性であることが報告されています(*1)。この副反応の原因物質として可能性が高いと考えられているのが、ワクチンの添加剤であるポリエチレングリコール(PEG)です。
COVID-19ワクチン接種により女性にアナフィラキシーが多い原因として、女性は毎日化粧品を使うので、「化粧品に配合されているPEGに多くさらされ皮膚から体内に入ることで感作(*2)されていることが原因ではないか」と指摘する先生もおられます。そして、それをもとに多くのサイトで化粧品に配合されているPEG原因説が掲載され広まっています。が、実際はどうなのでしょうか?
その可能性を完全に否定できる証拠はありませんが、化粧品を開発している私からすると、たとえば化粧水に汎用されている分子量の小さい水溶性のPEGが皮膚内に入り、そして感作されるとは考えにくく(*3)、クリームなどに用いられることのある分子量が大きいPEGになるとなおさら皮膚を透過できないですし、またすべての化粧品にPEGが配合されている訳でもないので、「女性にアナフィラキシーが多い=化粧品のPEGが原因」というのは、まさに都市伝説だ!と思っています。
PEG含有の市販化粧水をマウスに塗り、血液中にPEGによるアレルギー反応を起こす引き金になる物質(抗体)ができていることを示した論文もありますが、化粧水塗布前にマウスの皮膚を毎回10回ガムテープではがして皮膚のバリアである角層を取り去っている実験の結果であるので、この論文をもって、「PEG含有化粧品を継続的に使用することが、ワクチンに含まれているPEGによるアナフィラキシーの原因になる」というのは、飛躍しすぎだと思います。
むしろPEGは、マクロゴールという名前で医薬品に広く配合されていて、特に慢性便秘薬の経口治療薬や大腸疾患の検査や手術の際に用いられる腸管洗浄剤などの主剤として高濃度配合されています。胃や腸などの消化器官は吸収するための器官なので、医薬品のPEGの方が、化粧品よりも原因になる可能性は高いのではないかと思います。とはいえ医薬品が原因であれば、女性が大多数であることの説明にはならないので、結局、まだ何もわからないというのが正しい理解だと思います。
初回で張り切りすぎて長くなりましたが、最後までお読みいただきありがとうございました。明確な証拠がない事柄に関しては、いろんな推測が飛び交うので、惑わされてしまいますよね。いろんな情報に翻弄されないためには、正しい情報を見極める力を持つことが大事だと思うのですが、今の時代、情報が容易に手にはいる一方で、その数が多すぎて、何がわかっていて何がわかっていないのかを知るのも容易ではありません。なので、このシリーズでは、わかっていることとわかってないことを明確にしてお知らせしていこうと思っています。次回もお楽しみに。(南野美紀)
(*1)日本アレルギー学会, 新型コロナウイルスワクチン接種にともなう重度の過敏症(アナフィラキシー等)の管理・診断・治療,令和3年3月1日
(*2)感作とは?:アレルギー反応は、免疫反応の暴走と言われるように、体に害を与えない物質に対しても「有害な物質だ!」と過剰に反応して、攻撃をし過ぎる結果に起こる反応です。原因物質が何度も体内に入り免疫反応を起こす準備ができたところに、新たに原因物質が入ってくると実際に害がない物質であってもアレルギー反応を起こすことがあります。「免疫反応を起こす準備ができた」ことを「感作された」といいます。
(*3) PEGの皮膚への副反応については、分子量が400より小さいPEGにはまれに軽い皮膚刺激を起こす可能性があるものの、アレルギー性(皮膚感作性)はほとんどないと考えられています。