トピックス2023.03.09
化粧品の世界ランキング‐IFSCCランキングについて
大谷、ダルビッシュ、村上などなど錚々たる日本人メンバーの出場が予定され開幕前から盛り上がっている野球の祭典WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)や、日本が予選リーグで強豪ドイツとスペインを下して世界中を震撼させた昨年のサッカーのワールドカップなど、スポーツの世界では国別の序列を示すランキング制がよく見られます。前述の野球ではWBSC(World Baseball Softball Confederation)ランキング(日本は現在世界1位)、サッカーはFIFA(Fédération Internationale de Football Association)ランキング(日本は現在世界20位)があり、スポーツの世界では強弱の序列を明確にしています。
驚くことなかれ!我が化粧品業界にもこのような国別のランキングが存在するのです。これまで何度もブログに登場しているIFSCC(国際化粧品技術者会連盟)が決めているIFSCCランキングです。今日は、この化粧品の国別ランキングが、どのようなランキングで何故そのようなランキングが必要なのかを説明します。
IFSCCの究極のミッションは世界の化粧品技術の促進とその共有化です。そのためには毎年開催されるIFSCCの世界大会(Congress)で世界中の研究者に最先端の化粧品技術をたくさん発表してもらう必要があります。一方、IFSCCに属する51もの加盟国(Society)を連盟として束ねるための仕組みの構築や傘下の15,000人を超える全会員のサポートとして種々のサービスを提供するため、IFSCCには相応の資金力が必要となります。したがって、IFSCCのミッションを達成するには当然のことながら「科学」と「資金力」が両方必要となるわけです。そこでIFSCCではその傘下のそれぞれの加盟国の「科学的」・「経済的」貢献度を総合的に評価して、ランキングをつけています。以前日本コスメの強みをご紹介したブログで登場した「サイエンスポイント」がまさにこの中の科学的貢献度に相当する指標で、IFSCCは毎年、各国の発表に対して、口頭発表には1報5点、ポスター発表には1報2点として、国別に合算した点数を算出し、過去6大会分の総計をもとにランキングをつけています。2022年のIFSCCロンドン大会終了後の最新の科学貢献度のランキングは以下のようになっています。
では次は経済的貢献度です。IFSCCの加盟国はその会員数に応じ、一人あたり7.5 CHF(スイスフラン)(現在の通貨レートで約1,000円)を毎年IFSCCに支払う義務があり、これがIFSCCの主要な財源の一つとなっています。例えば、日本の化粧品技術者会(SCCJ)には1,800名近い会員がいるので、毎年180万円程度をIFSCCに上納しています。すなわち、最も多い会員数を擁する加盟国が最もIFSCCに多くの会費を支払っていることになり、経済的貢献度が高いと言えるのです。したがって、会員数が経済的貢献度の指標となり、その最新のランキングは以下のとおりです。
IFSCCでは科学的貢献度と経済的貢献度の寄与度は同等とみなし、その合算評価をIFSCCランキングとして加盟国の最終的な国力のランキングとしています。その最新ランキングは次のとおりです。
このように日本は総合評価であるIFSCCランキングの1位です。2018年~2019年にフランスに1位を譲り渡したものの、2000年以降は日本がIFSCCランキング1位を保っています。では何故このようなランキングをするのでしょうか?IFSCCの51の加盟国の中にはフランスや日本のように毎年IFSCCの世界大会で多くの発表をする常連国もあれば、今まで一度も発表したことがない国も少なくありません。また、会員数3,000名を超える米国のような大国もあれば、加盟国としての最低基準である20名をギリギリ満たしている小国も幾つかあります。このように科学的・経済的格差が大きい加盟国の寄せ集めであるIFSCCでは大国がリーダーシップを発揮しつつ、連盟全体を牽引していく必要があります。そのため、ランキング上位の加盟国には責任と権限が付与されることになります。例えば、IFSCCランキングトップ6の加盟国はQualified Societyと呼ばれ、通常12人で構成されるIFSCC理事会の議席を最低一つ保有することが保証され、事実上連盟の運営に携わることになります。また、IFSCCの最も重要なイベントは毎年開催される世界大会(Congress)ですが、この大会はどの加盟国でもホスト国になれるわけではなく、IFSCCランキング15位以内の加盟国のみが開催する権利をもつ有資格国となります。
スポーツとは全く無関係の化粧品業界でも国別のランキングが必要な理由がご理解いただけましたか?日本は長年IFSCCのトップ国として君臨しており、それ故の責任は重く、これからも自らも最高の化粧品科学を提供しつつ、グローバルレベルでIFSCCがそのミッションを継続するためのリーダーシップを発揮し続けないとならないのです。(神田不二宏/IFSCCフェロー)