閉じる

Cosmetic Science

客員教授からの
お知らせ

トピックス2023.02.26

都産技研SUSCARE(サスケア)主催のwebセミナーで「日本コスメの強み」について講演しました

都産技研(東京都立産業技術研究センター)のSUSCARE(ヘルスケア産業支援室)主催の海外展開支援セミナー「日本コスメをグローバル市場へ」について、本ブログではこれまで南野先生による開催の予告編神田による終了後の報告編で紹介させていただきました。今日は、セミナー前半の講演のトップバッターとして私がお話しした「日本コスメの強みを考える”世界が認めたその技術力!”」についてご紹介します。

日本の化粧品は「安全」「安定」「高品質」といわれており、そのイメージに対して異論を唱える人はあまりいないと思います。では、実際のところはどうなのでしょうか?抽象的な「なんとなく」ではなく、客観的かつ定量的に化粧品の技術力を示せる指標はないのでしょうか?客観的かつ定量的となると意外と難しく、その理由の一つは化粧品の技術と一口にいっても、それは数多くの要素技術の組み合わせで成り立っているからです。要素技術とは「製品を構成する要素に関する技術」のことで、化粧品の場合、「皮膚科学」「有機化学」「界面化学」「レオロジー」「心理学」「微生物学」などなど例を挙げ始めたらキリがないほどの広い分野の技術が製品の中に入っています。ですので、ある化粧品が、どのような要素技術で構成されているのかを明らかにすることだけでも大変ですし、ましてや化粧品の機能の中でそれぞれがどの程度貢献しているかを正確に割り出すことは不可能に近いことです。したがって要素技術を基本単位として化粧品の技術力を算出することには無理があるのです。

では他にどのような視点で考えれば良いのでしょう?そこで私は、客観的かつ定量的な指標となり得るものひとつとして、化粧品科学に特化した国際学術大会での発表実績があるのではないかと考えました。というのも、学会での一つの発表は通常一つの化粧品技術に相当します。さらに、世界各国から発表者が集まるので、国別に発表数をその国の化粧品技術の数と置き換えて比較することもできます。化粧品の国際学術大会として毎年開催され、権威と規模からも世界最高峰と考えられているのがIFSCC(国際化粧品技術者会連盟)の学術大会です。IFSCCは毎年、各国の発表に対して、口頭発表には1報5点、ポスター発表には1報2点として、国別に合算した点数を算出しそれをサイエンスポイントとして記録として保存しています。そして更に各大会での優秀な発表に対しては様々な「賞(Award)」が与えられます。したがって、サイエンスポイントを化粧品技術の「量的」な指標、受賞数を「質的」な指標とみなすことができるわけです。

過去直近6回の発表点数の合計点で決められるIFSCC大会での最新のサイエンスポイントを見るとフランスが一位、僅差で日本が二位で、三位の韓国以下のその他国とは大差がついています。量的指標では、フランスと日本が断然高い技術を持っているといえます。

質的指標に関しては日本が圧巻の受賞数を誇っています。IFSCCの歴史の中で1970年以降の大会から賞を与えるようになり、現在までの100件近い受賞論文のうち、なんと日本は今まで47件を受賞しており、二位のフランスの14件を大きく引き離しています。今までIFSCCが授与した賞の総数のほぼ半分を日本が獲得しているのです。ちなみに…過去の受賞実績から日本の優れた化粧品技術の内訳を紐解いてみると、様々な分野の研究がバランス良く高いのですが、特に基礎分野では「皮膚科学」、応用分野では消費者目線での「実用的なイノベーション」に強いといえます。これらのことを総合すると、日本は世界の中でも「量」・「質」ともにトップレベルの化粧品技術を生み出してきたことがわかります。

 このような輝かしい実績を有する日本の化粧品技術ですが、決してこれからも安泰であるとは言えません。欧米各国、特にフランスはAISDGsなどの未来志向に向けて着々と化粧品技術を進化させています。昨年のロンドン大会の発表をみる限り、日本はいまだに従来のイノベーションの延長線上に留まる小粒な研究が多く、目線を遠くにも向けていかなければ、いつの間にか欧米はおろか、中国や韓国にも遅れをとることになると強く懸念しています。今年の9月のIFSCCバルセロナ大会では是非日本からスケールの大きな発表が見られることを願ってやみません。(神田不二宏)