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Cosmetic Science

化粧品科学研究室
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Prof コラム2024.02.27

【論文のご紹介2】クリームやヘアコンディショナーの重要技術「αゲル」の解説

みなさんこんにちは。化粧品科学研究室の渡辺です。

 

いきなり質問です。

「クリームやヘアコンディショナーには、どのようにしてとろみ(粘性)がついているのでしょうか?」

これらの化粧品がシャバシャバな(粘性がない)状態だったら、使いにくいですし、皮膚や毛髪への付着性も悪くなって効果が低下することもあります。

正解は「αゲルのネットワーク構造によって粘度が出ている(図)」です。αゲルは日本の化粧品会社、特にわたしが在籍していた資生堂で先輩方によって多くの研究や発表が行われた結果、日本で化粧品処方の研究を行っている人なら、一度は聞いたことがある用語です。

このαゲルに関して2016年に「化粧品のαゲル」と題した総説を書きました。

リンクをクリックすると総説にジャンプします。無料で公開されています。)

 

この総説は化粧品会社のたくさんの研究員の方に読んでいただいたようで、今でも「あの総説、読みました!」と声をかけていただくことがあります。

この総説を読むにあたって、知っておくとわかりやすくなるポイントをお知らせします。

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1.αゲルは結晶の一種であるα型結晶が水の中で縦横無尽にネットワークを作ってゲル化した系

2.つまり、αゲルは水相とα型結晶相の2つの相が共存した状態であり、遠心分離によって2つを分離可能

3.αゲルを調製するには界面活性剤と高級アルコール(融点が室温より高いもの)を水中で高温で混ぜて冷却する

4.高融点(高温での保存安定性良好)のαゲルを調製するには、2つの成分として融点の高いもの(親油基が直鎖アルキル基など)を選択する。

5.界面活性剤と高級アルコールのモル数の比としては1:3程度で生成する例が多い

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より詳しく知りたい人に向けて少し解説すると、

ゲルとは何らかの(高分子などの)ネットワークによって、本来は低粘度の溶媒(水など)を不動化した系です。したがって、α型結晶によって水が不動化された本系はαゲルと呼ばれます。水の濃度が最大95%位でも全体を均一にゲル化できる場合があります。

高級アルコールの代わりに直鎖脂肪酸モノグリセリドでもOKです。界面活性剤と組合わせる成分の必須条件は、まずは、両親媒性物質であることです。次に、界面活性剤の親油基と並んだ時に共に結晶化しやすい親油基を有していること。そして、やや親水性の界面活性剤と混ざったときに混合HLB(親水-親油バランス)が中間的になること、つまり界面活性助剤的なやや親油的なHLBを有する成分であることも重要です。以上の条件から気づかれた方もいると思いますが、界面活性剤自体が適切なHLBを持っていて結晶化しやすければ、界面活性剤と水だけの系でも生成します。この事実は意外と知られていません。

α型結晶は二面性をもった面白い状態です。「結晶としての性質と会合体としての性質」「平衡的な挙動と非平衡的と思わせる挙動」などが観察されます。これらの二面性のどちらの側に立って研究するかによって結論が変わってしまうことがあり、そのために系統立てて理解しにくいという事情があります。これについて解説するととても長くなってしまうので、この辺で終わりにしておきます。

興味のある方とは学会などでお会いしたときに、ぜひ議論をさせていただきたいです。

 

毎日のシャンプー後にコンデを使用する際に、結晶のネットワークによって粘度が出ていることを想像していただくと、化粧品の不思議や面白さが実感できるのではないでしょうか。

 

渡辺 啓(化粧品科学研究室 教授)

 

このシリーズのリンク:【論文のご紹介】化粧水やクレンジングの重要技術「マイクロエマルション」の解説